自殺防止に向けて

自殺大国日本の現状

今わが国では、毎年3万人以上もの方が、自らその命を絶っています。これは、一日84人余り、18分に1人の割合で自殺している事になり、このような状況が14年間も続いているのです。これは、交通事故死者数の5倍~6倍に相当する数で、平和な日本で、毎年これだけの人々が、14年間連続して、何らかの原因で自らの命を断っているという状況は、甚だ憂慮すべき事態と言わなければなりません。

自殺者が3万人を越えたのは14年前の1998(平成10)年で、前年の秋から立て続けに起きた三洋証券、北海道拓殖銀行、山一證券の大型金融破綻事件によって大量の失業者が発生し、2万3千人台だった前年の自殺者が、この年一気に3万11千人台へと急増し、それ以来、14年間連続して、3万人台で推移しているのです。

都道府県別で見ると、自殺者数が最も多いのは東京都の3100人、次いで大阪府の1899人、神奈川県の1824人と続きます。一方、自殺者数が最も少なかったのは徳島県で、150人となっています。人口10万人当たりの自殺死亡率で見ると、最も高いのは山梨県の36.1、次いで秋田県31.6、新潟県30.5、岩手県30.1、青森県29.1と、東北の各県が続きます。山梨県がトップなのは、自殺スポットとして有名な富士の青木ケ原樹海がある為で、平成23年の山梨県内の自殺者数は、県外からの自殺者を含めて312人となり、平成19年から5年連続で、自殺死亡率が全国1位という深刻な状況となっています。

自殺防止への取り組み

死因を年代別に見てみますと、20代、30代の若者の死因のトップを自殺が占め、また10代、40代では死因の2番目に、50代では3番目に自殺が入っている事を見ても、その深刻さが分かります。60代以降になりますと、自殺は死因のベスト3から消えますが、これは、定年を迎えて様々な精神的ストレスから解放され、心にゆとりが持てるようになるからではないかと推測されますが、いずれにしましても、わが国の将来を担っていかなければならない20代、30代の若者の死因のトップが自殺という現状は、由々しき問題と言わなければなりません。

本川裕氏の「社会実情データ図録」によれば、世界172ヶ国中、人口10万人当りの自殺率で、わが国は、北朝鮮、韓国、ガイアナ、リトアニア、スリランカ、スリナム、ハンガリー、カザフスタンに次ぐ世界第9位の高さとなっており、国内の政情不安による混乱が続く体制移行国や途上国ならいざ知らず、先進国の中でも特に高い自殺率は、まさに「自殺大国」と言ってもよい状況と言えましょう。もっとも最近、韓国が日本を抜きOECD諸国の中でトップとなったので、先進国中世界一と言う不名誉な座は明け渡した格好ですが、それでもこれほどの高い自殺率は異常という他はありません。

このような事態を憂慮して、国や自治体をはじめ、各方面でいま盛んに自殺防止に向けての取り組みが行われていますが、2300人前後で推移していた毎月の自殺者の合計が、昨年11月の時点で、2万5754人であった事を考えますと、3万人の大台を切った事は間違いなく、15年目にしてようやく、取り組みの効果が現れてきている兆候が見られる事は、喜ばしい限りと言わねばなりません。そうは言っても、まだ3万人近い人々が自殺している事も事実で、先進国中トップクラスの高い自殺率を示している事実を見ても、決して楽観視できる状況にあるとは言えないでしょうし、景気の成り行き如何によっては、再び3万人台に逆戻りする事も十分考えられます。それだけに、自殺防止に向けたなお一層の取り組みが、今後とも求められている状況に変わりはありません。

自殺は、自殺した本人も然ることながら、周囲の家族や知人など多くの人々の心に大きな傷跡を残し、それが引いては、第二、第三の自殺へとつながっていく危険性も指摘されています。自殺者は、年間3万人を越えていますが、家族などを含めその4~5倍の人々にさまざまな影響を及ぼす事を考えますと、自殺がもたらす不幸な状況は甚大と言わなければなりません。また、自殺未遂者は自殺者の10倍余りに達するばかりか、様々な悩みやストレスを抱えて抑うつ状態にある人々を含めますと、自殺予備軍と呼ばれる人々は天文学的数字となり、先進国中第1位を占める自殺大国の日本の姿が垣間見えてくるような気がいたします。

それだけに、自殺防止は、国や自治体など公的機関に頼るだけでは限界があり、国民一人一人が自らの問題として取り組まなければならない緊急課題と言っても過言ではなく、一人でも多くの人々に、自殺防止への関心を持って頂きたいと、改めて願わずにはいられません。