究極のエコ運動― 食べないものには箸をつけない (2)

「貪りの文明」から「足りる事を知る文明」へ

皆さんもよくご存知のように、いま世界各地で、地球温暖化による深刻な影響が現れてきています。北極圏の氷は、予想をはるかに超えるスピードで溶け始め、そこに住む生き物は絶滅の危機に瀕しています。北極圏の氷が無くなるのは、ここ数百万年間には無かった異常事態で、日本の国土の三倍に相当する130万平方キロメートルの氷がすでに溶けて消失しています。

数百万年以上も溶けなかった氷が、僅か十年余りの間に、三分の一にまで減ったのですから、その異常さが分かりますが、今の状態が進めば、人類存亡の危機に直面すると言っても、過言ではないでしょう。

また北極圏の凍土には、全地球の大気中の6分の1(約980億トン)に匹敵する膨大な量の炭素が存在しており、温暖化によって凍土が溶けて炭素が二酸化炭素(CO2)やメタンになって放出されれば、温暖化を加速させると懸念されています。

更にロシアのシベリアにある永久凍土も急速に溶け始め、中から放出されているメタンガスは、二酸化炭素の20倍以上ものエネルギーで地球温暖化を加速させると言われています。

氷解による海水面の上昇は、太平洋の島々を水没の危機に陥れ、そこに住む住民の安全を脅かしていますし、海水温の上昇に伴う海流の変化によって、魚介類の生態系が大きく変わり、漁獲量の激減という深刻な影響をもたらしています。

最近、世界各地で頻発するようになった異常気象、特に超大型の台風やハリケーンの相次ぐ発生による甚大な被害、或いは熱波による森林火災の増加、大津波や大洪水、巨大地震による壊滅的な被害など、かつて経験した事のない未曾有の天変地異も、地球温暖化と無関係ではありません。

これから地球温暖化が加速すれば、その影響がさらに拡大していく事は間違いなく、人類が直面する危機は想像を絶しますが、因をたどれば、今の文明が大量消費、大量投棄を続けてきた貪欲の付けが回ってきた当然の結果と言えましょう。

地球温暖化は、私たちが自ら蒔いた貪欲による大量消費と大量投棄が原因ですから、どのような悲惨な結果が待っていようと文句は言えませんが、私たちの子や孫、そして将来生まれてくるであろう子々孫々の世代に、大きな付けを残していくことだけは何としても防がねばなりません。

いまこそ私達は、飽くなき欲望の追求に走る今のライフスタイルや文明の在り方そのものを根本的に見直さない限り、人類の未来も世界の平和もあり得ない事に気付かねばなりません。

そして、その解決の糸口が、ワンガリ・マータイさんが提唱した「MOTTAINAI」活動であり、「食べないものには箸をつけない」という誰にでも出来るエコ運動ではないかと思うのです。

夢の架け橋

インターネットが発達して、様々な物がネットを通じて売買されていますが、オークションなどを見ても分るように、世の中には、同じものであっても、それを不要と考えている人と、それを必要と考えている人がいます。

「食べないものには箸をつけない」というエコ意識が生活全般に波及し、ある人にとっては不必要なものが、それを必要としている別の人の手に無償で渡るようになれば、無駄になる筈であったものに、再び光が当てられ、そのものの命を生かし切る事が出来ます。

「食べないものには箸をつけない」というエコ運動は、浪費と無駄と贅沢を奨励し、大量消費、大量投棄によって支えられている今の文明の在り方そのもの、私達の生き方そのものを根本から問い直す革新的な運動だと思いますが、残念ながら、このエコ運動は、ただ「食べないものには箸をつけない」というだけでは完結しません。

何故なら、不必要と判断されたものが、それを必要とする人の手に渡らなければ、結局のところ、再利用されないまま廃棄せざるを得なくなるからです。

「食べないものには箸をつけない」というエコ運動を完結させるためには、不必要としている人と、必要としている人とをつなぐネットワークの構築が、どうしても欠かせません。

しかし、このネットワークの構築は、口で言うほど容易ではありません。そこには、解決しなければならない様々な問題が山積しています。しかし、嬉しい事に、そのような試みが、食品という一分野ではありますが、すでに始まっているのです。

今まで捨てられる運命にあった食品を、生活困窮者や福祉施設などに無償で提供する橋渡し役として、最近注目を集めているのが、セカンドハーベスト・ジャパンのようなフードバンクの活動で、支援者も増えて、徐々に広がりつつありますが、これこそまさに、「食べないものには箸をつけない」というエコ運動を完結させた一つの例として、未来に明るい希望をつなぐ活動ではないかと思います。

このような活動が広がってゆけば、「食べないものには箸をつけない」という意識も更に高まり、食品をはじめ様々なものを必要としている人々と、不要としている人々とをつなぐ夢の架け橋が次々と誕生する事になりますが、これは決して夢ではなく、必ず実現する架け橋になるのではないでしょうか。

奇跡を起すのは誰か

勿論、このようなエコ運動の輪が、最初から、全世界の人々を動かすまでに拡がっていく事は難しいかも知れません。しかし、「千里の道も一歩から」と言われるように、一歩踏み出さなければ、何も変わりません。それどころか、私達の住む生活環境は、無駄とゴミであふれ、悪化の一途をたどっているのです。

たとえ最初は一人ではあっても、一人が実践すれば、一人が無駄にしてきた食事は勿論、あらゆる無駄なものが、それだけ確実に減らせるのです。その輪がどんどん広がっていけば、確実に世界は変わっていくに違いありません。

世界を変えるのは、聖人でも偉人でもなければ、政治家でもありません。私達一人一人の思いであり、世界を変えたい、救いたいという思いなのです。

たったそれだけの思いと実践だけで変えられるとすれば、まさに奇跡と言っていいでしょうが、奇跡は待つものではなく、起すものであり、しかも、その奇跡を起せるのは、神でも仏でもなく、私達一人一人なのです。

一人でも多くの皆さんが、「食べないものには箸をつけない」という究極のエコ運動を実践し、その意識がどんどん広がってゆき、私達の住むかけがえのない地球が、今よりもっともっと住みよい環境になる事を祈ってやみません。

究極のエコ運動― 食べないものには箸をつけない (1)