大自然の摂理に帰れ

「少欲知足」の実践の大切さ

大自然の摂理に従って無駄を無くし、贅沢を離れ、足りる心を知る事が大切なのは、何も破綻した財政を立て直す為だけではありません。「少欲知足」の実践は、私達自身の健康管理にとって欠かせない最も身近な課題でもあるのです。
昔から、「腹八分に医者要らず」と言われますが、「少欲知足」の実践の大切さを医学的、科学的に実証されたのが、生物学者であり、医学博士でもある千島喜久男博士です。千島博士は、人間の肉体を物質と見て、悪い所だけを局所的に治療する西洋医学の対症療法だけでは限界がある事を悟られ、西洋医学に、人間を心身一如の生命体と見る東洋的考え方(東洋哲学)を取り入れた「八大原理」という説を発表され、様々な病気の原因やその治療法について研究されたお方ですが、「八大原理」という文字を見た時、私の脳裏に浮かんで来たのは、菩薩様の御廟「夢殿」でした。
八角形の夢殿と千島博士の八大原理。同じ八という数字に、何か菩薩様の教えと相通じるものがあるように感じたからですが、千島博士の説は、今の医学界の常識から見れば、まさに異端と映るような内容の学説でした。

千島博士の八大原理

千島 博士(新生命医学会HPより引用)

第一原理は、「赤血球分化説」で、医学界の通説では、赤血球は血液中の細胞の一種に過ぎないと言われているのに対し、千島博士は、赤血球は全ての細胞の母体になるもので、赤血球が分化して生み出されるのが細胞であると説いておられます。つまり、赤血球は、通説が言う死の一歩手前にある老化した細胞ではなく、これから新しい細胞に成長していくピチピチの存在であると言うのです。

第二原理は、「赤血球と組織の可逆的分化説」で、人間が飢餓・断食などの病的状態にある時、細胞は赤血球に逆戻りすると言うものです。これは一種の若返り現象で、粗食、節食、断食が、健康維持や病気の治療に非常に効果がある事の裏付けとなっています。

第三原理は、「バクテリアとウイルスの自然発生説」で、ウイルスやバクテリアは、親となる病原菌や親ウイルスによって発生すると説く通説に対し、千島博士は、ウイルスやバクテリアは或る条件下で自然発生すると説いています。つまり、親細菌が無くても、体の機能が衰えたり不衛生な食事をしていると、血球や組織が病的になり、そこに細菌やウイルスが自然発生すると言うのです。例えば、ライ菌によって感染すると言われているハンセン病(ライ病)は、ライ菌による感染ではなく、生活面での悪条件が重なって細胞が病的になり発病するのだと説かれています。

第四原理は、「細胞新生説」で、「細胞は細胞分裂によって生じる」のではなく、「細胞構造を持たない有機物のかたまりから、一定の条件のもとで自然発生する」と説いておられます。例えば、癌細胞は、通説が言うような細胞分裂によって増殖するのではなく、血液が病的になった時、赤血球から白血球になり、その白血球が変化して癌細胞になると言うのです。ですから、清浄な血液を造る事が大変重要になってきますが、この清浄な血液を造る上で障害となるのが過食や肉食過多で、食べ過ぎると消化液が薄められて腸内腐敗を起こし、細菌毒素が血液中に吸収されて、健康阻害の原因になるばかりか、病気の回復を遅らせる事になります。

第五原理は、「腸造血説」と言いまして、通説が「血液は骨髄で作られる」と説くのに対し、千島博士は「血液は小腸の絨毛(じゅうもう)で作られる」と説いておられます。

第六原理は、遺伝学の通説が、「カエルの子はカエル」で、「トンビがタカを生む」のは突然変異だとしているのに対し、必ずしも「カエルの子はカエル」ではなく、また「トンビがタカを生む」のも決して突然変異ではなく、遺伝子は環境の影響によって刻々変化していくのであるから「氏より育ち」「生まれより育つ環境」が大切であると説いておられます。

第七原理は、「進化における共存共栄説」で、弱肉強食の生存競争で勝ち抜いたものだけが生き残るという自然淘汰説が進化論の通説であるのに対し、千島博士は、もし自然淘汰説が正しいなら、ライオンだけが繁栄することになるが、そんな事は決してなく、自然界では生物同士が共存共栄していると説いておられます。

第八原理は、「生命弁証法」と言われるもので、科学(医学)と哲学(宗教)は決して無縁のものでも対立するものでもなく、互いに補い合う関係にあるものであり、それが大自然の摂理だと説いておられます。

「気・血・動」の調和

千島博士が、健康維持と病気回復に欠かせないとして提唱しておられるのが、「気、血、動」の調和です。「気」とは、明るく穏やかな心と安らかな眠り、「血」とは、正しい食生活と清浄な血液、「動」とは、体を動かし怠らずに精進する事ですが、正しい食生活と清浄な血液を造る上で欠かせないのが、食事の3S主義(菜食、少食、咀嚼)の実践です。
この医学界の通説に反する千島博士の学説について、門外漢の私がその是非を論じられる筈もありませんが、千島博士が、自らの研究を通して、それまで通説と言われていた様々な事実に対して、大いなる疑問を持っておられた事は間違いないでしょう。特に西洋医学の対症療法による弊害や限界が様々な方面から指摘されている中で、人間を心身一如の存在として見つめ直し、その視点からの医療を忘れてはならないと説いておられる点は、仏教と相通じるものがあります。
健康維持と病気の治癒に、断食、節食、少食、粗食が非常に効果的であると説いておられる点も、仏教が説く「少欲知足」の真理に通じるもので、人間に本来備わっている自然治癒力を呼び覚まし、それによって病気を克服していくにはどうすればよいか、また病気にならない健康な心身を作るにはどうすればよいかという予防医学の大切さを説いておられる姿勢には、求道心に燃える僧侶のような一面さえ感じます。

食生活の見直し

千島博士は、健康維持の為には、肉食中心の欧米式食生活を改めて、菜食中心のわが国古来の食生活に立ち帰り、節食に心がける事が大切であると説いておられますが、これは、食事における「少欲知足」の実践に他なりません。
昔から、健康五原則として「快食、快眠、快便、快笑、快動」の五つが挙げられていますが、これも、「少欲知足」の実践と無関係ではありません。
原因の分らない様々な病気が増えている昨今ですが、これも明治時代以降、日本人の食生活が肉食中心の欧米式に変わった事と無関係ではないでしょう。菜食主義だった日本人の食生活が欧米式の肉食主義に変わり、「飽食の時代」「グルメの時代」などと言われるように、食生活が贅沢になるにつれて、原因の分らない病気が増えてきた事実を見ても、食生活に一因がある事は間違いありません。
人間の腸の長さは体長の九倍近くあるそうですが、肉食の欧米人の腸は、菜食主義の日本人に比べて短いと言われています。ですから、欧米人より腸の長い日本人が肉食過多に陥れば、腸内腐敗によって、毒素を出す腐敗バクテリアが大量に発生し、血液の酸性化を促して、様々な病気の原因になるのは当然と言えましょう。
また近年、贅沢病と言われる糖尿病患者の急増が問題になっていますが、これも、肉食中心の欧米式食生活と過食、運動不足が大きな原因である事は、周知の事実です。
粗食、節食、少食を心がけていた私達の先祖が、いたって健康に暮らしていたのに対し、その子孫である私達が、過食、飽食、美食によって逆に健康を害し、様々な成人病で苦しんでいるという皮肉な結果を見ると、私達が幸福に生きていく上で大切な事は何かが垣間見えてきます。